研究概要 |
ラット海馬および小脳のTriton前処理シナプス膜標品を用いて、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターイオノフォア複合体の多様性について追究した。イオンチャネルドメインへの[^3H]5-methyl-10,11-dihydro-5H-dibenzo[a,d]cyclohepten-5,10-imine(MK-801)結合は、平衡状態以前の条件下ではグルタミン酸(Glu)およびグリシン(Gly)の添加により濃度依存的に増強されたが、両アゴニストの添加条件下にスペルミジン(SPD)を添加すると結合はSPDの濃度に比例してさらに著明に増強された。しかしながら、小脳の場合にはGluやGlyは海馬の場合に比べて弱い結合増強作用しか示さず、またSPDは海馬の場合とは異なり小脳膜標品への[^3H]MK-801結合には著変を与えなかった。他のポリアミン類についても同様に検索を進めたところ、スペルミンやbis-3-(aminopropyl)amineなども海馬の[^3H]MK-801結合を著明に増強するが、小脳の結合に対しては著しい増強作用を発揮しないことが明かとなった。一方、平衡状態の[^3H]MK-801結合はMK-801などの非競合的NMDAアンタゴニストばかりでなく、N-allylnormetazocine(SKF 10,047)などのベンゾルファン系オピエート類や、あるいはフェンシクリジン(PCP)などの解離性麻酔薬類によっていずれも濃度依存的に阻害された。(+)MK-801と(-)MK-801は海馬と小脳の[^3H]MK-801結合を同等度の強さで阻害したが、N-[1-(2-thienyl)cyclohexyl]piperidine、pcp、ketamineおよびSKF 10,047はいずれも海馬の[^3H]MK-801結合は完全に阻害したが,小脳の結合に対しては完全な阻害作用を示さなかった。さらに、競合的NMDAアンタゴニスト類は平衡状態の[^3H]MK-801結合を強く阻害したが、その阻害能は海馬の場合の方が小脳の場合に比して10倍以上強力であった。以上の結果より、小脳と海馬では薬理学的特性の異なるNMDAレセプターイオノフォア複合体が存在する可能性が示唆される。
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