研究概要 |
広島県の忠海毒ガス製造所において毒ガス製造に従事した者についての健康障害はほぼ明らかにされてきたが,毒ガス充填作業者の健康障害については全く不明であった。 本研究は,北九州曽根毒ガス弾製造所において砲弾に毒ガスを充填する作業に従事した者における健康障害を明らかにすることを目的としたものである。 2年度にわたる健康診断受診者は307名(男129名・女178名)であり,332名の対象者からみた受診率は92.5%であった。受診者の男の平均年齢は70.4±4.2歳,女は68.9±3.7歳であった。工場就業時の平均年齢は男が18.8±3.9歳,女は17.3±2.5歳,平均勤務時間は男が32.7±14.0カ月,女は33.3±16.9カ月であった。 健康診断成績では,男は数人の背部皮膚に俗称“毒ガス斑"が観察され,毒ガスによる急性皮膚傷害のあったことが裏付けられた。ほかには一般老人健診に較べて男にやゝ貧血が目立ったように思われ,女は肥満型が多く,高脂血症が多いようであった。 毒ガス傷害の主要疾患である慢性気管支炎の有病率は,男48.1%,女33.1%であり,対象症例の忠海工員の男76.0%,女39.3%より低率ではあったが,諸家の報告と比較するとはるかに高率であった。 もう一つの主要疾患である気道癌は,死因調査からみる胃癌の14例に対して肺癌11例は多いように思われ,気道癌の多発も推測された。 以上の結果から,毒ガス充填作業においても毒ガス製造作業ほどではないが,毒ガスによる後遺症が明らかに存在することが判明した。
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