研究概要 |
本研究では循環調節に対するタキキニン・ペプチドの生理的役割に焦点を当てて一連の研究を行なった. 1.中枢性血圧調節: 麻酔下でラット脳室内にpreprotachykinin A geneに由来するタキキニン・ペプチドを投与すると,血圧の上昇と心拍数の増加が認められた.血圧上昇反応は,節遮断薬やα-遮断薬により抑制されたことから,主に交感神経系を介しているものと考えられる.さらにサブスタンスPによる昇圧作用はNK-1型受容体拮抗薬のCP-96,345の脳室内投与によって抑制されたので,脳のNK-1受容体を介して昇圧反応を発現したと考えられる. 一方,preprotachykinin B geneに由来するニューロキニンBのアナログのセンクタイドを脳室内に投与すると、血圧の上昇が認められ,この上昇はバソプレシンV1受容体拮抗薬の静脈内投与により抑制された.さらに,センクタイドを室傍核に直接投与した結果,血圧が上昇し,この反応もV1拮抗薬の静脈内投与により抑制された.また,センクタイドの脳室内投与により,血中のバソプレシン量が著しく上昇した.従って,センクタイドは室傍核のNK-3型受容体を刺激し,下垂体からバゾプレシンを遊離させ血圧を上昇させるものと考えられる. 2.タキキニン・ペプチド-AVP系の体液調節機構: ラット脳室内にNK-3受容体作動薬のセンクタイドを投与すると,容量に依存して抗利尿作用を発現した.この抗利尿作用は,V2受容体拮抗薬(OPC-31260,10mg/kg)の静脈内投与により抑制された.以上の結果から,中枢における体液調節機構にタキキニン・ペプチド-AVP系が存在関与し,昇圧作用と共に抗利尿作用を発現することを示唆した. 本研究によりタキキニン・ペプチドが中枢から血圧・体液調節を行なっていることが明らかにされた.さらに,最近非ペプチド性受容体拮抗薬が開発されてきたので,ペプチドの生理的意義や病態での動態を考えるとき,臨床的効果も大いに期待できると思う.
|