研究概要 |
カルニチンは長鎖脂肪酸のミトコンドリア内転送には必須の物質であり全身組織に存在する。しかし生体内におけるカルニチンの役割の重要性については一般的には否定的意見が多い。その理由の一つとして,生体から材料を得ることに限界があり,分析も十分にされないことがあげられる。今回,私共は,全身性カルニチン欠之マウスを分析し,次のことがわかった。 (1)全身筋組織でのミトコンドリアの変化:心筋,骨格筋,外眼筋ではミトコンドリアの増加が著明であった。血管平滑筋においては変化がみられなかった。心筋においては,加齢と共にミトコンドリアの増加は進み,リソゾーム様顆粒の増加,ミエリン様構造物の出現などがみられた。心筋,骨格筋におけるミトコンドリアのDNA量,RNA量については,COX1を選び分析したが著明な変化はみられなかった。 (2)心肥大の分析:生後2週より心臓は肥大しはじめ,電顕像では上述のようにミトコンドリアの増加がみられた。生後2ケ月では,細胞質のほとんどがミトコンドリアによって占められる細胞がみられるようになる。生後5ケ月で本マウスは心不全で死亡するが,ミトコンドリアの増加,変性などが死亡の主たる要因と考えられた。 (3)脂肪肝の分析:生後3日目よりすでに肉眼でみられる変化で,肝のHE染色では細胞質に大小さまざまな室胞が多数みられた。総脂肪は対照の約7倍,中性脂肪は約25倍に増加していた。カルニチン投与により,短期間で総脂質,中性脂肪が減少するので,カルニチンが欠之することにより脂肪肝が発症することがわかった。 (4)全身性カルニチン欠之発症のメカニズム:腎臓スライスを用いた分析から,ナトリウム依存性のカルニチン輸送活性が低下していることが判明した。
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