研究概要 |
培養血管内皮細胞におけるプロスタサイクリン(PGI_2)産生を刺激する新規な生理活性ペプチド因子(PSF)を,正常ヒト二倍体線維芽細胞の培養上清(CM)より同定,精製し,そのクローニングに成功した。まず,CMを濃縮透析後,蛋白質終濃度1mg/mlに調整した。さらに,高速液体クロマトグラフィーによりDEAE-5PW. Heparin-5PW. Protein-Pak300の3段階のカラムを用い,各分画の生物学的PGI_2産生刺激活性を指標に精製を行なった。最終的にIGF-1 affinityカラムを作製,使用して精製が完了した。PSFは,SDS-PAGE電気泳動にて31kDaの単一バンドを示し,蛋白濃度25ng/mlにおいてCMの約8000倍の最大刺激活性を認めた。次に,精製PSFをトリプシン処理して得られたペプチド断片のアミノ酸配列を決定し,その配列からPCR用プライマーを作製した。Poly (A)-RNAを鋳型にRT-PCRを行ないoligo-nu-cleotideのDNA配列からスクリーニング用プライマーを合成しoligo (dt) -primed cDNA libraryをスクリーニングした。その結果2個の陽性クローンを得たが開始コドンを含まなかった為,そのcDNAのPvull/Smal断片をプローブとしてrandom-primed cDNA libraryをplaque hybridization法にてスクリーニングし,PSFのクローニングに成功した。一方,新たに作製したPSFのcDNAプローブを用い,Northern blot法による解析よりPSFはラットの脳,肺,肝臓,腎臓,骨格筋,脂肪などの各臓器に広く発現し,とくに血管の豊富な肺と腎臓にその発現の著明なことが判明した。また,培養細胞における検討でも血管壁構成細胞である血管内皮細胞と血管平滑細胞をはじめ皮膚線維芽細胞にPSFの発現を認めた。さらに,抗PSF抗体を用いた免疫組織学的検討では,各組織の動脈中膜平滑細胞と血管壁内皮細胞にPSFの特異的な染色性が確認された。これらの成績から,PSFは血管壁に局在し,血管壁局所においてパラクリン的,あるいはオートクリン的に作用して血管内皮細胞からのPGI_2産生を刺激することが推定された。
|