研究概要 |
同種骨髄移植における血管内皮障害の臨床研究として,同種骨髄移植を施行した21例について血中トロンボモジュリン(TM)を測定した。その結果,1)前処置の種類によらず移植前より移植後28日頃までのTM値は,ほぼ正常範囲内であったが,高値を示した症例ではその後肝中心静脈閉塞症(VOD)を併発しており,Regimen related toxicityの指標の一つになりうると考えられた。2)移植後,合併症のみられなかった5症例では,全経過中のTMは正常範囲内であった。3)移植片対宿主病(GVHD),VOD,間質性肺炎(IP)など,重篤な移植後合併症を併発した際,発症に先駆けてTM値の上昇傾向が見られ,症状の軽快した例ではTMは低下し,正常化した。4)以上の所見から,TMは骨髄移植後合併症の発症を予測する上で有用な指標になると考えられた。このことを確認するために,さらに,以下の動物実験を行った:1)ラット肺に20GyX線照射(線量率5Gy/分)し,照射前から経時的に採血し,TMを測定すると同時に肺病理組織標本をつくって、間質性肺炎を有無を観察したところ,ラットの放射性肺炎は20Gyの一回照射では6-8週後に必発であり、照射後のTMは二峰性の増加を示し間質性肺炎の発症との関連性が認められた。2)ラットのGVHDモデルとして組織適合性抗原の異なるFisherとDAを交配することによりF1を作成し,このF1を宿主としてFisherよりの脾細胞を輸注することによりGVHDを誘発した。この系において,組織壊死因子とともにTM血中濃度の上昇が認められた。また,GVHの強度と血清TM濃度との相関も認められた。 以上の結果から,同種骨髄移植後の合併症の発症に血管内皮細胞の障害の関与が示唆され,血中TMは,同種骨髄移植後合併症の発症を予測するうえで有用な指標の一つと考えられた。
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