研究概要 |
von Willebrand因子(vWf)は先天性のみならず、後天性にも種々の疾患ないし病態で量的または質的異常をきたすが、その発症機序は現在のところは不明な点が多い。免疫学的機序に加え、異常な血行動態、特にhigh shear stress下での活性化血小板へのvWfの吸着による消費や、何らかの酵素によるvWrの蛋白分解なども考えられる。そこで今回、播種性血管内凝固症候群(DIC)を取り上げ、後者の可能性につきex vivoでの検討を行った。DICでは多くの症例で血漿vWf濃度増加にも関わらず高分子vWfマルチマーが低下していたが、採血時にセリンプロテアーゼインヒビターのsoybean trypsin inhibitorやアプロチニン添加してもマルチマー構造には全く影響せず、システインプロテアーゼインヒビターのleupeptin,N-ethylmareimide,EDTA添加により高分子マルチマーがある程度あるいは完全に温存された。また、その異常はトロンビン生成ではなく、血漿中プラスミンーα_2ープラスミンインヒビター複合体濃度に反映されるプラスミン生成程度と平行し、in vivoでのプラスミン生成程度と平行し、in vivoでのプラスミン生成または線溶亢進に伴うような状態が、少なくとも一部、このex vivoでの高分子vWfマルチマーの欠乏に関与しているものと思われた。以前、慢性骨髄増殖性疾患でも高分子vWfマルチマーが高頻度に低下し、その欠乏程度は血漿中プラスミンーα_2ープラスミンインヒビター複合体や顆粒球エラスターゼーα_1ープロテアーゼインヒビター複合体濃度と無関係で、プラスミンや顆粒球エラスターゼが主たる原因ではないこと、採血時のシステインプロテアーゼインヒビターのleupeptin,N-ethylmaleimide,EDTA添加で影響を受けず、in vivoでの変化が主体であることを示した(Thromb Res56:191,1989)が、今回のDICでの知見はこれとは相異なるものであった。従って、病態により、後天性vWf異常の発症原因が異なることが明らかとなった。
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