マウスはその遺伝的基礎が確立しているため、ヒトの遺伝病などのモデル実検動物として重要な位置を占めている。また、多くの遺伝子が現在クローニングされているが、それらの機能を知る上でも、マウスを用いた分子遺伝学的実験は不可欠である。 しかし現在よく用いられている実験マウスは(M.m domesticuo)は実際第17番染色体上に大きな逆位を含んでおり、大変異マウスと呼ばれる変異体が逆に正常な遺伝子配列をもつことが示唆された。そこで種々の野生マウス、実験動物マウス及び、tハプロタイプマウスについて、その遺伝的系譜を調ベ、実験動物マウスの遺伝情報の基礎を与えることを目的に本研究を行なった。 このようなtハプロタイプマウスは劣性致死、組換え抑制、雄性不妊などの性質をもつにもかかわらず、精子による伝達率が高いため、日本を含めヨーロッパ、アジア、アメリカ、アフリカなど世界中の野生マウスに10-43%という高頻度で存在する。このtハプロタイプの進化を調べる指標として大変異領域にあるTcp-1遺伝子の塩基配列をtハプロタイプと種々のMus musculus 亜種および他の野生Mus種について調べ比較した。その結果、世界中に広がるMus musculusのtハプロタイプの間でTcp-1イントロンの配列は全く同一で、それらが同一の起源に由来することを明らかにした。またその伝播が40万年前以降つまり、Mus musculusの亜種が分岐(100-200万年前)した後であることからtハプロタイプの分岐が遺伝子浸透とよばれる亜種を越えたものであることを示した。またtハプロタイプと似たTcp-1配列をもつマウスは他の種にも見られずtハプロタイプの越源となったマウスが現存しないか、小集団であることが考えられた。
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