研究概要 |
2原子結晶の例としてGaAsをとり,Ga原子のK吸収端(1.15980Å)の長短両波長側において,2組の波長における4測定と長波長側2波長における回折測定を,放射光実験施設において行った。本研究は昭和63年度の科研費一般研究(B)を得て開始したものであって,今回は測定精度を向上させるための補助金申請であった。補助金受領後は1回のマシンタイムしか得られなかったので,過去のデータを参照し,特に高精度測定が望ましい1組の波長,すなわち1.19857Åと1.19332Åの2波長において回折測定を行った。しかしK吸収端より短波長側での測定精度は不足していて,GuKα1線での回折測定により通常の方法で得た温度因子0.916Å^2(Jpn.J.Appl.phgs.28(1989)573)に対し,3.5Å^2の値が得られ,温度因子の独立測定には不成功であった。 長波長側では,測定可能な回折線も多く測定精度も高いので,過去の測定データも加え,7種の波長における回折測定から,結晶構造因子の波長依存性を求め,異常分散補正項の実数部f'_Gの差は可成大きいが,虚数部f"_Gの差が無視できる波長の組合わせ4組を採用し,Gaの温度因子を求めた。この方法ではGaの原子散乱因子が必要であって,自由原子に対する理論値を用いなければならないので,化学結合の影響を無視することとなるが,Gaの温度因子として1.3Å^2の値が得られた。前述の0.916Å^2に比べて大きいが,異常分散を基にした温度因子はイオン芯の温度因子であるから,原子は剛体ではないので,剛体近似を使っている通常の方法での温度因子よりもやや大きくてよいと考えられる。それゆえ1.3Å^2の値は少し大きすぎるが,イオン芯の熱振動振幅が原子全体としての熱振動振幅よりも大きいことを反映している。
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