研究概要 |
[目的]血管を構成する細胞におけるアラキドン酸遊離反応の解析は主に分子薬理学的な方法で多くの研究が報告されている。しかし、これらの研究ではPLA_2はblack boxとして扱われ、PLA_2を直接対象とした研究は、まだ少ない。ホスホリパーゼA_2(PLA_2)は、細胞刺激応答反応としてのアラキドン酸遊離反応の律速酵素として重要な役割を果たしている。最近の研究結果(我々の研究も含め)から、哺乳動物PLA_2には少なくとも3種類のアイソザイムが存在することが明らかにされている。本研究では、牛大動脈中膜PLA_2の分子的性質を詳しく調べ、また既知のアイソザイムとの異同を調べるため本酵素の精製を試みた。[結果]a.ウシ大動脈中膜上清画分のPLA_2活性は、標品調製直後は著しく低く種々の極性基のリン脂質、界面活性剤の影響など詳しく検討したが、有意な活性は検出できなかった。しかし、上清画分を滅菌状態、30℃でインキュベートすると約6時間のラグの後、徐々に酵素活性は上昇し、48時間後に最大値を示した。この活性化はカルシウムイオンで加速され、EDTAで完全に阻害される。この活性化は、セリンプロテアーゼ阻害剤で著明に抑制されたためプロ酵素の限定分解が活性化の原因となる可能性が示唆された。また、グアニンニュークレオチド誘導体は活性化を促進した。4℃で活性化された牛PLA_2をDEAE-セファロース、フェニルセファロース、TSKG3000SW、Cosmosil_5C_8300各クロマトグラフィーにより部分精製しその性質を調べた。1.本酵素はホスファチジルエタノールアミン(PE)に特異性が高く、他のクラスのリン脂質より10倍高い活性を示す。2.groupI,II PLA_2と異なりPEリポゾームに高い活性を示すが、陰イオン性界面活性剤で阻害される。3.活性発現にカルシウムイオンが必須である。4.分子量約30,000である。5.グリセロリン脂質のsn-1とsn-2の両方のエステル結合を加水分解する。精製の各ステップを通じてPLA_2/PLA_1活性比は約0.6で一定であった。6.牛PLA_2はI群、II群PLA_2と免疫学的に異なっていた。
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