研究概要 |
中世・近世の気候変動について,主として日本とヨーロッパのデータから復元を試みた.まず日本の天候記録や気候炎害記録についてデータベースを作成し,それらの一部は「EUROCLIM:欧州古気候データベース」にも加えられた.これらのデータベースから,中世の温暖期や近世の小氷期を広域的に分析した. データベースには,従来から整理されている弘前藩庁日記のほかに,多度津藩日記や八戸藩日記などの天候記録を新たに収集整理して追加した.これらのうち1675年〜1715年のものを,日本の特性を考慮した特殊天侯コードにより変換して「EUROCLIM」に加えた. それらのデータベースを利用して気候変動を分析した結果,以下のことが明らかになった.1)天候記載方法についての歴史的変遷および地域的差異から,天気用語,記載時刻,記載精度などの特色が明らかになった.2)小氷期の中でとくに18世紀の冬季について,毎日の天気分布を総観気候学的に分析し,冬型気圧配置頻度が高いことを明らかにした.3)長期間の気候災害資料を分析した結果,日本でも中世温暖期が存在したことが,明らかになった.4)世界規模の気候変動を支配しているエルニーニョについて,とくに太平洋の小笠原,東北日本との関係を分析した.エルニーニョには近年の場合暖冬冷夏が対応し,今世紀の場合には温暖多雨期間が対応することが明らかになった.5)マウンダー極小期(1675-1715)を例とし,日欧の気候変動の比較を行った結果,冬季においては,日欧で類似の傾向がみられるが,夏季においては大きく異なることが明らかになった.6)欧米のいわゆる「夏のない年:1816年」について,その夏に東シナ海沿岸を調査していたイギリス船の日記を分析した結果,該当地域では冷夏ではなかったことが,明らかになった.
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