レトロポゾンの一種であるヒト反復配列L1は約6kbの長さをもち、それにコードされている蛋白質がある種の細胞で発現している。我々は最近、L1の転写がL1内部にある配列(内部プロモーター)により制御されていることを培養細胞への遺伝子導入実験により見い出した。この解析より転写開始点の約10_6p下流に存在する配列(サイトA)がその転写活性に必須であり、その配列に結合する核蛋白質(TFL1-A)の存在を証明した。 本研究では、無細胞転写系を用いてL1転写機構をより詳細に解析した。各種実験の結果以下の知見を得た。 (1).Hela細胞より調整した核抽出物を用いた無細胞転写系において、L1配列はその転写能を有し、転写開始が正確に+1で起こる。 (2).変異を導入したL1配列を用いた実験より、サイトAが無細胞転写系においてもその転写活性に必須である。すなわち本無細胞転写系は培養細胞で得られた結果と同一であり、培養細胞系を忠実に反映している。 (3).α-アマニチンテストの結果、L1の転写がポリメラーゼIIIにより制御されていることが判明した。 (4).サイトAに結合する核蛋白質TFL1-AのcDNAクローンの単離に成功しその構造を明らかにした。 (5).TFL-AがYY-1、NF-E1、8と呼ばれるポリメラーゼII系転写制御因子と同一蛋白質であることを見いだした。 以上の結果より、L1配列はポリメラーゼIIIにより転写され、その転写活性にはサイトAが必須である。核蛋白質TFL1-AはポリメラーゼIIIとIIの2つの転写系に関与するユニークな転写制御因子である。また蛋白質をコードした遺伝子がポリメラーゼIIIにより転写されることを証明したのはこの系が最初の例と思われる。
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