研究概要 |
巨大なアメーバ細胞である粘菌を用い、走化性、走電性、走光性などの細胞行動に対応してATP,cAMP,Ca^<2+>,リン脂質などの細胞内化学成分が時間・空間的に変動することを明かにした。今年度は代謝酵素反応の自己組織化と情報判断との関連を追究した。 (A)リン脂質組成を変更する酵素フォスフォリパーゼDの精製と性質 粘菌変形体の20-40%硫安分画から、陰イオン交換カラムクロマト(DEAEセルロース)およびゲル濾過(セファデックスG-200)、さらに陰イオンカラムクロマトを行うことにより、蛋白吸収およびゲル電気泳動的に単一の酵素フォスフォリパーゼD(PLD)を得た。粘菌PLDの分子量は、2.5万であった。Ca^<2+>感受性で、マイクロモル以上で活性化された。 (B)解糖系におけるパターンダイナミクス 酵母抽出液にトレハロース(250mM)を添加し、解糖系の振動およびパターン形成を340nmの吸光度変化、すなわちNADHの濃度変化で測定した。化学振動が得られたが、周期は10分から80分と変異株により大きく異なった。 伝播する化学波動を新しく見いだした。最初、NADH濃度の濃い領域や低い領域が網目状に分布している。このパターンに重なるようなNADH濃度の高い全体に広がる大きな領域がキュベットの下から上方へ伝播していった。伝播速度は約1mm/minと拡散に較べて十分に速い。紫外線照射により波動の伝播は抑制された。 以上のように、細胞知覚で見られたような刺激に応答する時間空間パターンが、代謝反応系で実現できた。細胞インテリジェンスと関連する情報統合のメカニズムは、今後の課題である。
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