研究概要 |
アリストテレスの哲学的思索の宝庫である生物学をめぐる近年の争点は目的因の存在論的身分である。或る人々は有機体の存在は質料因と始動因だけでは十分に説明できないと考え、他の人々はその本質の定義は目的因なしには不可能であるが、この両因による有機体の存在の十分な説明は可能であるとする。因果性(実在)と説明(言語)の関係をめぐるこの因難な問題接近の一基地を見定めたい。自然は複雑な構造を有し規則的で美しく無駄のない秩序を示す。人が人を生む複製機構の絶妙さこそ「最も自然なこと」であり、この自律的に形態発生する生物の秩序性の帰一的第一根拠が「実現さるべきもの」なる目的因である。目的は反省概念ではなく、理(設計図)の次元で資料に比と限界を与へ条件的に必然な質料を規定し(「理にも必然性はある」200b4)、時空特定可能な物理的次元で質料の自然的運動を引き起こす自然的原因である。熱冷等物理的必然運動なる自然学者の「自然的にある」は、理により形相づけられた質料の必然運動として、行為モデルに比され、解し直される。それ故質料の端的必然性は条件的必然性に「還元され」も「包摂され」(J.Cooper等)もせず、理上指定された質料が時空次元で一質料として独立した「自然的にある」必然運動を為すので、両者は同一事物の二次元の必然性である。(Phii8,9,PAil,De Anii4,GAiil,v8) 生物の複製機構を範例とする「何故かくも自然は秩序正しいのか」という何故疑問に対する解が四原因論である。原因は実体の力の能動的・受動的発現と解される。始動因は場所上連続的な力の変動を生む物理的原因である。他方理にある善なる目的因は生成の完成状態なる形相因でもあり、受動的質料とそれに合着した始動因に秩序と方向性を賦与するその第一能動因、本質である。かくして目的因は質料・始動因と存在論的次元を異にしにそれらに還元されない。かく自然の帰一構造は原因論のそれとなる。(Phii3,7,Metv4)
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