本研究は仙人の成り立ちを葬制との関連で考慮し、同時に道教のなかにおける仙人の位置付けを企図したものである。 平成四年度はまず、考古学的視点から、初期の仙説と深く関連する中国古代の葬制や墓制(とくに石室)について考慮した。その際、中国の影響を多大に受けている韓国・日本の古墳および副葬品等についても検討した。また文献学的始点においては、とくに儒教の経典のなかにみえる中国古代の葬制や儀式について詳細に検討した。その際、従来より広くおこなわれているような儒教的倫理観を考察するのではなく、葬制や儀式の底流として儒教以前より伝わる古代中国人の深層意識といったものを探ることに留意した。儒教の害物のなかには、儒教的な解釈がほどこされてはいるものの、古代の人々の死生観が残存しているように思われる。 平成五年度は道教関係の文献のなかに膨大に存する仙人の伝記に関して考察を試みた。とくに仙人説の出発点となる【荘子】の「真人・神人・至人」などに関して考察した。だたし、荘子自身は肉体的に不老不死をもとめるような考え方に対しては、むしろ、否定的であったように思われる。また漢の武帝に関するさまざまな伝説『漢武帝内伝』・『漢武帝外伝』・『漢武故事』・『漢武事略』といった書物に関しても若干の考察を試みた。これらの書物のなかには尸解仙の事例が豊富にあれわれ、尸解仙の観念の成立時期に関して貴重な史料であると考えられる。ただし、それらの書物が、いつごろ成立したかといったことに関してはまだ詳細な研究がなく、本報告書においても、そういったことに関して、踏みこんだ考察を加える余裕がなかった。これらに関しては、今後、引き続き研究を進めていきたいと考えている。
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