自主開発中の絵記号PSL-88を用いて、重度のコミュニケーション障害児を対象に絵記号文構成の可能性をさぐった。通常の文字による場合とは異なり、絵ことばによっては、統語上例えば格助詞、形容詞、擬音語などの品詞の語用は困難である。また英文法と比べてみても、語の配列・位置関係から、主語、目的語の区別がしにくい。主語の省略、代名詞の語用も多くみられるなど、国語文法による場合には統語論、語用論的にみて問題がある。 本研究においては、上記の問題点を解決するために、名詞は白色、動詞黄色に色分けし、単文構成に当っては、先ず主語+述語の2語文の段階から、次に主語+目的語+動詞の3語文の段階へとすゝむ手順をとった。絵記号学習においては、主文素と修体文素の区別、主部と述部との区別など文中の品詞の種類、統語関係などの弁別をさせることが重要な課題である。 主部、述部の関係は語の出現順序によって学習が容易である。主語と目的語との区別も先行する語が常に主語であると決められていれば、さほど学習困難にはならない。目的語を赤青などで色分けすることも一案である。このようにすると絵記号文の学習が、形象、色彩、語の位置と3次元的となり、複雑な学習条件を構成することになるので、重度障害児の知的能力を考慮した時、かえって混乱が予想される。段階法によって語の位置の学習を手堅く積み重ねていった方が、学習を円滑にするのではないか、という印象をつよくもっている。 本研究で絵記号文についての統語論的問題点が明らかにされ、解決のための緒口が得られたとおもわれる。今後はオノマトペの絵記号化、絵記号成分の合成、つまり会意文字化、相互的コミュニケーションなどについて検討したい。
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