研究概要 |
18歳人口の急減期を迎え、日本の高等教育および個々の機関は今日大きな転換点に立たされている。戦後一貫して量的に拡大してきた日本の高等教育諸機関は、この状況でどのような対応を迫られるのか。現時点では、18歳人口の20世紀初頭までの推計値に基づいて、いくつかの高等教育機関、とりわけ短期大学が閉校(倒産)に追い込まれるのではないか、との悲観的な予測が支配的である(例えば清水義弘 1992)。しかし、高等教育の存亡に影響を及ぼす環境は単に18歳人口だけではない。経営能力、財政状態、国の経済状況や教育政策、等様々な環境要因が存在している。これらの要因の将来を全て確実に予測することは不可能に近い。したがって、日本の高等教育の将来を考えるには、むしろ過去を綿密に調べることによってこそ示唆されるところが多いと考えられる(Zammuto,R.F. 1986)。そこで、本研究は戦後日本の高等教育の動態を、組織の個体群生態学Population Ecology of Organizationsの理論・分析方法に基づき各種統計データを利用して実証的に研究することを目指している。本年度の成果は以下の通りである。 1.理論的枠組の確立のため、1970年代以降の組織研究の動向を見てみると、組織を「閉鎖システム」としてではなく「開放システム」と捉えること、組織を「テクニカルなシステム」としてよりもむしろ「政治システム」「象徴システム」として理解する傾向が認められるとともに、分析のレベルとしては、個々の組織ではなく、「組織領域」「ポピュレーション」のレベルでの分析が主張されるようになってきた。したがって、組織と「環境」との相互作用を重視する組織論の台頭が著しい。それらは「コンティンジェンシー理論」「資源依存理論」「制度理論」「組織の個体群生態学」などである。 2.しかし、これらの理論が高等教育の分野で十分に利用されているとは言い難い(Roades,G. 1992)。高等教育の組織的分析は依然として、管理運営、分業、秩序の問題等、「閉鎖システム」としての組織研究の流れを受けたものが主流である。組織の個体群生態学の理論と方法に基づいての研究は、国際的に見ても皆無である。 3.新しい知見としては、大学等の学校は、他の組織と異なって「ルースな構造」「組織化されたアナーキー」であること、意思決定は「ごみ箱モデル」であること、などである。 本年度は残念ながら時間的制約のため、実証レベルでの分析まで達成できなかった。したがって、今後の課題としては、本年度の理論研究に基づいて実証的なデータ分析を実行することと、米国など諸外国のデータを入手として国際比較分析を行うことなど、である。
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