研究概要 |
平成6年度の研究は,前年度に引き続き大企業・中小企業間における下請・系列関係の評価に関して,自動車工業、家庭電機工業の実証分析をもとに,理論的研究を進めた。とくに,日本における大企業・中小企業間の企業間分業関係の特質について究明した。 1.日本型企業間分業関係の利点として,(1)製品の安定的供給,需要の確保,(2)生産技術,研究開発等に関する情報の交換,共有,(3)専用的な特定資産(specific assets)投資による効率性と協調的関係,(4)取引企業間の情報の非対称性の回避,軽減,(5)利益,リスクの長期的共有・シェア,(6)設計変更,納期変更,需要変動等への弾力的な対応,(7)垂直統合による組織肥大化の弊害(X-非効率)の克服,(8)技術や生産ノウハウの移転と専門化,(9)長期,継続的取引による高い習熟効果(learning effect)による技術力向上,コスト・ダウンや関係に特有の技能(relation-specific skill)の発展,(10)適切な競争原理発揚による企業間競争の市場成果等があげられる。 2.しかし他方,日本型企業間分業関係の問題点として,(1)企業間の経営資源格差による,優位企業の優越的地位の濫用,劣位企業間の過度競争の可能性,(3)多大なコミュニケーション・コスト,(3)埋没費用(sunk cost)が参入障壁となること,(4)不完全契約下での多面的競争が国際的視点からは透明性に欠くこと,(5)個人株主の経営に対するチェック(モニタリング)機能が働きにくいこと等があげられる。 今後の研究課題として,こうした企業取引分業関係に関する経済・経営理論フレームを構築し,大企業・中小企業間の下請・系列関係の発展方向を措定することとしたい。
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