イリス商会に関する研究は、(1)幕末・明治初期の紀州・和歌山藩との関わり、(2)陸海軍工廠の生産との関連、(3)第一次世界大戦後のボッシュ社(電装品メーカー)代理店としての役割、に関する資料収集とその分析について行なわれた。(1)については、軍制改革のお雇外国人たるプロシャ軍人ケッペルが、イリス商会(クニフラル商会)の売込におおきな役割を果たしたこと、(2)については、貿易商社高田商会と競合しつつ、イリス商会がクルップ社製品を売込み、陸海軍工廠における生産の不可欠な要素となったこと、(3)については、戦前日本において、ドイツ・ボッシュ社製品の国産化が実現できなかったこともあって、イリス商会ボッシュ部を設立して、電装品の販売と修繕も担当することで、イリス商会が販路を確保したこと、などが明らかとなった。 イリス商会は、ドイツの重工業製品、クルップ社製品、そしてボッシュ社製品の売込みを通じて、日本重工業の展開にかかわったのであるがその史実を明らかにするための資料収集は、まだ不充分であり、特に、重工業セクターの中心であった陸海軍工廠における在来兵器生産から、航空機などの生産、技術開発への「転換」に関するデータの欠落は今後の課題とせざるを得ないものとなっている。 つまり、イリス商会、財団法人三井文庫、および防衛庁防衛研究所図書館に所蔵されている資料については一応、収集し得たと考えられるが資料上のつながりは充分とは言えず、更に補完データの収集によって体系化することが必要となっている。 したがって、イリス商会の代理店機能を日本における重工業の展開と関係づけて、その意義を問う(日本への技術移転の媒介)という課題に関するトータルな把握は今後の課題となっている。
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