研究概要 |
生体内の電子源であるNADHは呼吸鎖において酸素分子へ効率的な電子伝達を行なうが、非酸素系でNADH類縁体を用いても、金属錯体、プロトン単独では酸素分子への電子移動は起こらない。しかし、金属ポルフィリン錯体とプロトンを共存させるとNADH類縁体による酸素分子の還元が効率良く進行するようになることを見いだした。NADH類縁体としては酸に対して安定な10-メチル-9,10-ジヒドロアクリジン(AcrH_2)およびその9-アルキル置換体(AcrHR)をNADH類縁体として用いた。R=Me,Et,CH_2COOEt,AcrH(9,9´-ビスアクリジン)の場合、アセトニトリル中、CoTPP^+(コバルトテトラフェニルポルフィリン)および過塩素酸が存在するとO_2はH_2O_2に還元される。一方、R=Bu^tおよびCMe_2COOMeの場合は、脱水素ではなく酸素のアルキル化が選択的に起こる。反応機構としては、まず、AcrHRからCoTPP^+への電子移動が起こり、H^+が存在するとCoTPPへO_2とH^+が付加し、ラジカルペア内でHあるいはRが移動して生成物が得られる。この場合、CoTPP^+が存在しないとAcrHRからの電子移動は起こらない。また、H^+が存在しないとO_2の付加が起こらないので、触媒サイクルにはならない。 一方、脱酸素下AcrHRを[Fe(phen)_3]^<3+>(phen=1,10-フェナントロリン)を用いて電子移動酸化すると、Rの種類に依存して9位のC-HあるいはC-Cが開裂してAcrR^+あるいはAcrH^+が生成する。その選択性はAcrHRから脱水素あるいはRの酸素化が起こる場合の選択性と一致する。従って、AcrHRから脱水素が起こるかRの酸素化が起こるかは、AcrHR^+の9位のC-Hが切れるかC-Cが切れるかにより決まる。このように生成するラジカルイオンの反応選択性を制御することにより、全体の反応経路(脱水素あるいは酸素化)の制御も可能となった。補酵素類縁体の励起状態が関与する光電子移動反応についても同様な触媒作用を見いだした。
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