筆者が1990-91年にMainz大学へ留学した時に接した、Siegertの主根発生に関する学説を、批判的に再検討する仕事を行なった。先ず根の外生(exogenous)と内生(endogenous)という概念の定義を、胚発生および根原基発生の組織解剖図を用いて明らかにした。一部の学者は「すべての根は内生である」と言う。その理由は、根端分裂組織の中心は茎頂のように表層には無く、根冠で包まれた内側にあるためである。しかしこれでは、根の発生方式における重大な区別点が見失われてしまう。それは次の2つの場合である: 1)根原基の頂端は根冠だけで覆われ、その外側には何も無い。したがって根の成長によって他の組織が破壊されることは無い。 2)根原基の頂端は根冠で覆われでいる。根冠はさらにその外側を別の組織で覆われ、この部分は根の成長によって破壊されて植物体内に空洞ができる。 筆者は1)を外生、2)を内生と呼ぶ。 ほとんどの種子植物の主根は外生である。胚の最外層である原表皮が並層分裂をして根冠をつくる。例外は根冠の最先端に付いている胚柄で、これだけは破壊される。しかし根冠の側方部は常に植物体の最外層を占めている。 これに対し、ほとんどの側根や不定根は内生である。これらの原基及びその根冠は植物体内の奥深い位置に発生し、酵素反応によって周囲の組織を溶解して空洞をつくり、次にその空洞を満たすように根原基が成長する。 Siegertはイネ科の胚が最初につくる根も「主根」であるとしているが、筆者はジュズダマ(Coix)などを材料として、この根が2)の方式の内生であること、つまり不定根と相同であり、主根は退化していることを証明した。これらの論文を1992年12月に発表した直後から、欧米の学者多数の意見が寄せられ、賛否相半ばしている。そのためWeberling教授らは、1994年にHalleでドイツ植物学会主催の形態学シンポジウムを開き、討論をさらに深めることを計画している。
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