当初の計画にしたがい、比較的分子構造の簡単な結晶性汎用高分子であるポリプロピレンについて、低温におけるX線小角散乱の測定を行なった。温度変化を観察するための基準としては室温における散乱強度を用いた。低温になるにしたがって散乱強度は次の2種類の変化を示した。(1)室温ではベクトルq=0.03A^<-1>付近(ブラッグスペースで約200A)に明瞭に観察されるショルダーが、低温になるにしたがって次第に消失していく。このため基準の散乱強度との差は低温になるにしたがい大きな負の値になる。これは結晶部分と非晶部分の熱膨張係数の違いにより、低温になると両者の間の電子密度差が小さくなるためであろうと推定される。(2)微小角q≦0.01A^<-1>において、基準散乱強度との差は温度の低下とともに急激な立上りを見せる。これが予備実験で既に明らにされていたX線の小角異常散乱である。この現象を定量的に把握するため、第一次近似としてギニエの法則を適用した。それによると、電子密度揺らぎの平方根2乗平均ρは温度の低下とともに急激に増加し、-50℃での値は-10℃での値の約10倍にもなることが判明した。一方、電子密度揺らぎの相関長λを同様の方法で見積もると、ρの変化とは逆に温度の低下とともに減少する傾向にあることが明らかになった。例えば-10℃のときλ=32nm、-50℃のときλ=190nm等々である。 以上、本年度の研究により、低温におけるX線小角異常散乱に関する定量的なデータが得られ、平方根2乗平均電子密度揺らぎやその相関長を評価することができた。今後はこれらの変化が具体的に高分子のどの部分の構造変化に対応するのかを明らかにする必要がある。そのためにはモルフォロギーの単純な非晶性高分子も含めて測定を継続する必要があろう。以上の結果は適当な学術誌に投稿するため英意準備を進めている。
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