研究概要 |
ラセミ体アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)のうち、DL-バリンNCAとDL-フェニルアラニンNCAの単結晶の構造解析に成功した。DL-バリンNCA結晶は、斜方晶系で、空間群=Pca21、a=8.938(1),b=10.207(2),c=7.788(1)Aであった。水素結合は、L体のカルボニル基((C(1)=O(1))とD体のイミノ基間、およびD体のカルボニル基とL体のイミノ基間に形成され、L-体とD-体がc軸方向に連なっていた。 DL-フェニルアラニンNCA結晶は斜方晶系で、空間群=Pna21、a=9.606(2),b=6.378(2),c=30.077(5)Aであった。水素結合は、一個のイミノ基と別のL体のカルボニル基((C(1)=O(1))とD体のカルボニル基((C(2)=O(3))の二個の結合の間に形成されていた。またD体のイミノ基は、D体とL体のカルボニル基との間に同様の水素結合を形成していた。この結果、DL-バリンNCAに対してDL-フェニルアラニンNCAの方が固相反応性が低い理由は水素結合の違いによる分子運動の阻害効果のためと思われた。 一方、DL-バリンNCAおよびL-バリンNCAの固相重合をアニソール溶液中の重合と比較し、以下のようなことがわかった。(1)溶液・固相ともL-体の方がDL-体よりも反応性が高い。(2)L-体は溶液の方が固相より、やや反応速度が大きい。反応は、結晶内の1軸に垂直な層内でランダムな方向に起こり、生成ポリペプチドはβ-構造である。(3)DL-体は溶液の方が固相より反応速度はずっと大きい。生成ポリマーの分子量は固相で経時的増大が起こる。生成ポリマーは、ランダムコイル型の形態と見られる。なお、反応およびグルタミン酸エステルの結晶作成については引き続き検討中である。
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