研究概要 |
1.酵母由来のリパーゼによる2-(4-クロロフェノキシ)プロピオン酸の立体選択的エステル化において、ケイ素含有アルコール(CH_3)_3Si(CH_2)_nOHと対応する炭素化合物との反応性および立体選択性の違いを検討した。n=2の場合は、両者とも同様の反応性・立体選択性を示したが、n=1の場合、炭素化合物は反応が遅いのに対し、ケイ素化合物は反応性・立体選択性ともに高く、光学分割を効率よく行うことが出来た。このことは、ケイ素原子はn=2の場合は、酵素に対して炭素原子と同様に振舞うが、n=1ではケイ素原子が炭素に比べ大きな原子であるため、水酸基のまわりの立体障害が炭素化合物より緩和されることやTrimethylsilyl(TMS)基の電子供与性等によるものと考えられる。2.好熱性細菌、酵母及び馬肝臓由来のアルコール脱水素酵素(ADH)を用いて緩衝液中で種々のケイ素含有アルコールの脱水素反応を試みたところ、基質特異性が広い馬肝臓ADH(HLADH)のみが活性を示した。系統的な検討を行うために、(CH_3)_3Si(CH_2)_nOHを基質として選択した。Ethanolに対する相対活性はn=1,2,3でそれぞれ27,212,65%となり、一方、n=1,2の炭素置換体では133,108%であり、ケイ素置換効果が現れた。よってTMS基による電子的安定化効果(ケイ素原子に対してα-炭素の陰電荷及びβ-炭素の陽電荷の安定化)が生化学反応においても働いていることが推察された。このように、n=2の2-TMS-ethanolはHLADHの極めて良い基質であったが、水系では生成したアルデヒドが速やかに非酵素的にSi-C結合の開裂を受けてTrimethylsilanolとethanalになり、さらにethanalはHLADHによってethanolへ還元された。一方、炭素置換体の3,3-Dimethylbutanolの場合、相当するアルデヒドが経時的に増加し安定であった。n=3の3-TMS-propanolではpropanal anionの不安定性からの開裂の速度が遅く、そのアルデヒドを検出同定することができた。
|