研究概要 |
まず初年度は,アルテミアがドコサヘキサエン酸(DHA)を体内でドコサペンタエン酸(DPA)やエイコサペンタエン酸(EPA)など短鎖化するか否かを飼育試験とアイソトープを用いた試験により調べた。その結果,EPA添加によりアルテミア中のEPA含量は著しく増加したが,DPAやDHAは検出されなかった。一方,DHAでアルテミアを強化するとDHA含量が増加するとともに,DPAが僅かに検出され,さらにEPA含量はオレイン酸添加アルテミアのEPA含量よりも増加していた。さらに,アルテミア中のDHA含量はEPA添加のEPA含量に比較し半分以下の量しか蓄積されていなかった。このことから,アルテミアは体内でDHAをDPAやEPAに短鎖化しているものと推察された。そこで,^<14>CをラベルしたDHAをアルテミアに取り込ませ,^<14>CがDHA以外のDPAやEPAなどの脂肪酸に存在するか否かをシンチレーションカウンターを用いて測定した。まず,添加油脂の脂肪酸を用いてHPLCによる各n-3脂肪酸の分離状態を調べたところ,EPA,18:3n-3,DHA,DPAの順にほぼ完全な分離を示すピークが得られることを確認した。次にDHAからEPAへの短鎖化の第1段階であるDHAからDPAの転換を証明するために,[1-^<14>C]DHAを用い,直接法によりアルテミアに与え,アルテミアへの^<14>C-DHAの取り込みと,転換を調べた。その結果,HPLCにより得たDPA画分に僅かではあるが放射能の取り込みが認められた。次年度では,アルテミアにはリノレン酸を多量に含む淡水型(ユタ産)とEPAを多く含む海水型(天津産,ブラジル産)の両タイプのあることが知られていることから,これらの違いによりDHAの転換に差異があるか否かを調べた。その結果,DHAの取り込みはブラジル産が最も多く,ついでユタ産,天津産の順であった。しかし,DHAからDPAへの転換率と産地により異なる脂肪産組成を持つ幼生との間に明確な関連は見られなかった。次に,飼育水温によりDHAの短鎖化される割合が異なる可能性が示唆されたことから,水温を16℃および25℃に保持させた実験区と,6時間目まで16℃に保ち,それ以降室温を25℃に移し温度変化を与えた区を設け取り込み実験を行った。その結果,一定の水温に保持させた区での取り込みに大きな違いが見られなかったが,水温に変化を与えると放射能の取り込みが30%余り増加し,油脂の取り込みに温度が関与していることが分かった。DHAからDPAへの転換は水温の上昇にともないDPAの割合がやや増加する傾向が見られたが,大きな違いはなかった。本研究の結果から,アルテミアはDHAをEPAへ短鎖化するため,DHAを濃縮させにくいことが明らかになった。すなわち,淡水・海水両タイプのアルテミアとも本来DHAを含有していないことから,アルテミアにとってDHAは必須栄養素ではなく,DHAを短鎖化して他の脂肪酸やエネルギー源にしているものと推察された。
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