研究概要 |
骨盤内臓器を支配する自律神経には交感神経系の下腹神経と副交感神経系の骨盤(内臓)神経が区別され,ヒトではさらに仙骨部から起始する仙骨内臓神経が約半数の頻度で存在する。この神経は比較解剖学的には高等霊長類の段階で出現する神経で,イヌでは存在しない。犬の自律神経の電気刺激実験では下腹神経はemission(精液の後部尿道までの射出)と内尿道口閉鎖を行うが,この神経を切断した犬では交感神経幹と骨盤神経の刺激ではemissionは代償されるが,内尿道口閉鎖は代償するに至らない。これは骨盤神経に交感神経系の線維が混在することを示し,ヒトの仙骨内臓神経の働きと考える。この原理は下腹神経切断時の逆行性射精のメカニズムの証明であり,新知見である。下腸間膜動脈神経節を構成する線維群は大内臓神経由来の中央線維群と腰部交感神経由来の側方線維群に区別され,前者はemissionに後者は内尿道口閉鎖に関係するとされてきたが,両機能はいずれも側方線維である第3〜5交感神経幹神経節から起こる腰内臓神経によって営まれ,その起始髄節は第2〜4腰髄である。この成分の大半は下腹神経に,一部は交感神経幹-骨盤神経に含まれ代償機能を有する。射精を支配する腰内臓神経は腰部交感神経幹を出たのち,中枢側では下腸間膜神経節,末梢では前立腺神経叢で左右の神経線維群の交叉を営み,片側の腰内臓神経が対側の精路を支配するという同側優位,両側支配の2重交叉現象が観察され,自律神経の対側支配という新知見を得た。これは視神経交叉に対比する重要な所見である。交感神経節後線維に対するテロシンヒドロキシラーゼ(TH)を用いた免疫組織化学検索では交感神経幹神経節,下腸間膜神経節,膀胱頸部の被膜下に神経節細胞が陽性に染色され,3つの異なる神経節でニューロンを代えることが観察された。また,骨盤神経にもTH陽性線維が観察され,骨盤神経が交感神経線維を含むのが確認された。
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