研究概要 |
従来、培養有棘細胞癌(SCC)では上皮細胞の分化(角化)のマーカーケラチンであるK1(68KDa,pI7.8)とK10(56.5KDa,pI5.3)ペプチドが発現していないといわれてきた。これまではSCC株からケラチンペプチドを調整する際、高濃度塩溶液[1.5M KCl/0.5% Triton X-100/140mM NaCl/10mM Tris・HCl(pH7.6)/5mMEDTA/PMSF(0.1mg/ml)]で細胞を処理後、SDS-PAGEなどで分析していた。この高濃度塩溶液は元来、腫瘍組織を研究材料にした実験に用いられたもので、培養細胞の実験系では細胞にとって少し過激すぎると考え、より温和な希薄塩溶液[10mM Tris・HCl(pH7.6)/10mM EDTA/PMSF/(0.3mg/ml)]で2種類のSCC株を用いて改めて分析した。 驚くことに、多くはないがK1ペプチドの存在を、生化学的、免疫化学的およびmRNAレベルで証明した。この事実が一般的であるか否かを、さらに4種のSCC株で行なったが、全ての細胞株でその存在が確認され、K1ペプチドの発現はSCC株に普遍的であることが初めて実証された。次に、このK1ペプチドのペアーケラチンであるK10ペプチドについても同時に分析したが、6種いずれにも存在を示すデータは得られなかった。6種の細胞株に発現していたK1ペプチドは、ケラチンの線維形成したものとは異なり、低濃度(1-2M)の尿素(5%β-ME)溶液に約90%可溶化された。 以上の結果より、SCC株にK1ペプチドは単独で存在し、多くの研究者は見逃していた可能性が考えられた。さらに尿素溶液に対する溶解性から、このK1ペプチドは生化学的に変異を有する可能性があり、そのためK10ペプチドが誘導されないことも示唆された。
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