研究概要 |
剖検で得られたアルツハイマー病脳3個(平均年齢68.3歳)をBeachらの方法で潅流固定し、大脳皮質前頭葉を切り出した。これらの組織を浸漬固定した後、ビブラトーム切片とし、Tagoらの方法に従いアセチルコリンエステラーゼ(AChE)組織化学を行った。染色した切片はエポン包埋の後超薄切片を作製し、電子顕微鏡で検索を行った。なお診断は、臨床所見の他Bielschowsky鍍銀法で行った。これらの脳組織はCanada,British Columbia大学P.L.McGeer博士の協力による堤供であった。潅流固定脳は、高感度AChE組織化学を行うことで、光顕的には安定してAChE陽性の老人斑と神経線維を検出することができた。このためアルツハイマー病脳のコリン作動性神経線維と老人斑が同時に観察できた。しかし、染色は組織の表面付近に限られ反応の組織浸透性に課題が残された。電顕的には老人斑にあるAChE活性は、ほとんどがアミロイドに限局して認められた。いわゆる定形斑の核ではアミロイドの太い線維束が老人斑の周囲に放射するごとく密集していたがその周囲の散在性のアミロイド線維もまた種々の幅の束を形成し非定形的な広がりを見せていた。従来はもっと瀰慢性、散在性と思われていたが、これらのアミロイド線維束は互いに連絡している傾向にあり、変性した組織の間隙に侵入し、網状に包み込みながら拡大する様子を呈していた。これらの結果は老人斑の形成やその成長を考察する上で興味深い。またAChE陽性神経線維は主としてその膜表面に酵素活性を有しており、一部で酵素が周囲の組織に拡散していた。この拡散が組織にどの様な影響を及ぼすかは不明である。一方、今回の研究ではAChE老人斑と神経線維の直接的関係は観察できなかった。これはAChE陽性のコリン作動性神経線維が本疾患により大部分が消失してしまったためである。今後は、反応産物の組織浸透性を高める方法を開発し、AChE線維の残存する症例を選んで検討する予定である。
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