研究概要 |
平成4年度は上顎癌の誘発実験を行った。第1の方法として27ゲージ針をハムスター左眼窩下孔より上顎洞に刺入し0.5%9,10-dimethyl-1,2-benzanthracene(DMBA)を25μl(125μg),週1回で10週間注入した。対照には溶媒であるdimethyl sulfoxide(DMSO)のみを投与した。20週の時点で腫瘍の有無につき観察し結果,対照では12匹のすべての動物で鼻腔・上顎洞に腫瘍形成を認めなかったが,DMBA注入群では11/12(92%)に腫瘍の形成が認められた。組織学的には扁平上皮癌8,腺癌2,乳頭腫2であった。第2の方法として2%DMBAをオキシセルロースを挿入した上顎洞に40μl(800μg)一回投与した。16週後において,8/11(73%)で左頬部に腫瘍を認めたが,これらは肉腫であった。第3の方法はDEN4mgを皮下に週1回で10週間投与するものであり,20週での腫瘍形成頻度は6/20(30%)で扁平上皮癌1,腺癌2,未分化癌2,乳頭腫1であった。以上より,0.5%DMBAの上顎洞内注入にて,ヒト癌に近似した上顎扁平上皮癌を誘発できることが明らかとなった。しかし,この方法では20週以上の実験期間を要するため,平成5年度では約14週で実験を終了できるハムスター口腔粘膜癌実験系を用いて,顎下腺摘出とepidermal growth factor(EGF)の粘膜局所投与の影響を検討した。すなわち,0.5%DMBAを週2回ハムスター頬嚢に6週間塗布し,その1週後に半数の動物には顎下腺摘出手術を,残りの半数には模擬手術を行った。術後1週後より週3回EGF10μg/kg/体重を両側の頬嚢粘膜に6週間塗布した。対照としてはEGF調製用の基剤を用いた。この系では胃にも腫瘍が誘発されるため,頬嚢と前胃について観察した結果,腫瘍数はEGF塗布により有意に増加することが明らかとなった。組織学的に頬嚢腫瘍は乳頭腫と扁平上皮癌であったが,癌と乳頭腫の比率はEGF投与で増加しなかった。そのためEGFは頬嚢での乳頭腫形成を促進するものと考えられた。
|