研究概要 |
LECラット血清中に肝炎発症に先立って,肝ミクロゾームの56KD蛋白に対する自己免疫性抗体が発現することを見い出した。この自己免疫性抗体はトランスアミナーゼなどの血清検査値で認めうる肝炎所見の変化に先立ち4〜5週令で出現してきた。さらに劇症型肝炎で死亡したLECラット全例にこの抗体を認めた。その内約40%が55KD蛋白に対する抗体も有した。この自己免疫性抗体が肝炎発症または進展にとって重要な物質である可能性が考えられたため,これらの抗原蛋白の同定を行なった。二次元電気泳動,immunoblot分析により,自己免疫性抗体と反応するスポットを単離し,N末端アミノ酸配列を決定した。ホモロジー検索から56KD蛋白はプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI),55KD蛋白はカルレチクリンであると推定した。さらに,抗PDI抗体を用いた阻害試験や諸性質から56KD蛋白をPDIと確認した。一方,カルレチクリンはラット肝ミクロゾームより精製し,前記と同じN末端アミノ酸配列を確認し,免疫学的同定も行なった。 PDIの出現強度・頻度が高いことより,PDIに焦点を絞って実験的薬物性肝炎発症の動物モデルの検討を行った。種々の肝炎発症薬物をラットに投与した結果,アセトアミノフェンとジエチルマレイン酸の併用投与,または,D-ガラクトサミン投与で抗PDIの力価が上昇することをラジオイムノアッセイで確認した。いづれもGPTが共に顕著に上昇した。四塩化炭素,DL-エチオニン,アセトアミノフェン,ジエチルマレイン酸などの単独投与では,抗PDI抗体はほとんど認められず,肝炎発症機序の違いが示唆された。
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