昨年度の本報告において、ウサギ耳窓内の新生血管の先端部を電子顕微鏡的に観察し、漏出性の血管から細胞間マトリックス内に流れ出た血液をマトリックス内の線維芽細胞が取り囲むことによって血管が形成されることを示し、線維芽細胞が内皮細胞に分化する可能性を示唆した。そこで明らかにされた血管新生のメカニズムは、従来から広く認められている出芽法による血管新生の弱点を克服する画期的なものといえるが、線維芽細胞が内皮細胞に分化することに強く依存しており、これが実証とされない限り、このメカニズムの存在は確定できない。本年度は、線維芽細胞が内皮細胞に分化するか否かに焦点を絞って解析を試みた。 線維芽細胞をラベルし、ラベルされた線維芽細胞が血管内皮に取り込まれるか否かを検討した。ウサギ耳介皮下組織をイーグル氏MEM培養液にて培養し、線維芽細胞を増殖させた。数代継代培養を行った後、直径0.4ミクロンのラテックスビーズあるいは墨汁を貧食させて線維芽細胞をラベルした。装着2日目の未だ血管の見えないウサギ耳窓内にラベルした線維芽細胞を自家移植し、数日後生長してきた血管を固定した。新生血管の先端部の切片を作成し、光顕および電顕的に観察した。 ラテックスビーズあるいは墨汁を細胞質に持つ細胞は、結合組織内に多数観察された。これらは、紡錘型を示し線維芽細胞と考えられた。また、血管の内皮にもラベルされた細胞が認められた。しかし、ラベルされた内皮細胞は、結合組織内のラベルされた線維芽細胞に比ベはるかに少なく、見つけ出すのは容易ではなかった。ビーズと思われるものが血管の内腔にも観察されたことから、線維芽細胞は内皮細胞になった後、ビーズや墨汁などの標織物質を血管内腔に放出するものと考えられた。 線維芽細胞が血管内皮細胞に分化することが明らかになったが、放出されない標織物質を用いて再検討する必要性が示された。
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