研究概要 |
申請者は,アシナガバチの毒液がウニ卵の受精膜を上昇させる活性を持つことを知り,その活性がハチ毒ペプチドのGタンパク質活性化能と関連があるのではないかと考えた.そこで,どのようなペプチドがウニ卵の受精膜を上昇させ,卵にどのような作用を及ぼすのか突き止めるため,いろいろなハチ毒ペプチド誘導体を調製し,そのバフンウニ卵に対する作用を検討した. 1.まず,天然に存在するハチ毒ペプチドについて活性を検討したところ,一部のペプチドにはウニ卵に対する受精膜上昇活性が見られたものの,アシナガバチ由来のペプチド,ポリステス・マストパランにはその活性がないことが明らかとなった.しかし,マストパラン類のペプチドは,それ自身に受精膜上昇活性がなくとも,分子内に疎水的な修飾基を導入すると非常によくウニ卵の受精膜を上昇させることを見出した. 2.そこで,マストパランを基本骨格とし,どのような修飾を加えたらバフンウニ卵の受精膜を効率よく上昇させるかを検討した.最も修飾しやすいマストパランのN末端にいろいろな疎水基を導入したところ,dansyl,Fmocなど,かさ高い官能基ほど高い受精膜上昇活性を示すことが明らかとなった.また,ペプチドの修飾位置についてはN末端からリジン残基の側鎖に移してもその活性は保持されるが,ペプチドの鎖長を短くすると極端に活性が失われることが判明した. 3.最も活性が高かった[Lys(Dns)^<11>]マストパランについて,ウニ卵に対する作用機構を調べたところ,Gタンパク質を介した細胞内情報伝達経路を活性化しているというよりも,むしろ卵の表層における局所的な反応を促進しているものと思われた.しかし,表層反応の活性化により,染色体の凝集や表層アクチン束の形成など卵割過程の一部までを引き続き誘起することがわかり,マストパラン誘導体の作用は単なる細胞表層への非特異的な侵害ではないことが判明した.
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