研究概要 |
12%(w/w)までのエタノールを含む培地中で酒酵母7号とSaccharomyces cerevisiae AKU4100の2種類の酵母を400気圧までの高圧力下で生育させたところ,エタノールを含まない培地では酵母の生存率は圧力により低下した.これに対し,4および8%(w/w)のエタノールを含む培地では加圧により生存率が増加し200気圧で極大を示した.すなわち,エタノールが存在する系では圧力は酵母の生存率を高める方向に働く.これらの結果は新しい実験事実で,色々な分野での応用が可能であると考えている.下の(2)で示した加圧下におけるアルコール発酵はその一つである.酵母以外の微生物についても,高圧力下における挙動を調べてきた.例えば,大腸菌を400気圧の圧力下で一晩おくと,細胞1個の長さが約7倍長くなる異常伸長の現象が観察された.このように,約500気圧までの非致死的高圧力条件下における微生物はさまざまな興味ある現象を示す.本研究は,高圧力という地表菌では経験し得ない人工的ストレスを微生物に加えることにより,微生物の性質を変えこれを有効利用する可能性も秘めている. アルコール存在下の酵母が加圧により増殖することは,酵母のエタノール耐性が圧力により強化されたことを意味する.そこで,この実験結果の応用として高圧力下でアルコール発酵を試みた.200気圧の高圧力下で圧搾パン酵母を用いグルコースを発酵させたところ,酵母の生菌数は常正発酵の場合に比べ明らかに増加したが,アルコール濃度に関しては,現在のところ高濃度のアルコールが得られるところまでに至っていない.閉鎖系における二酸化炭素の除去が今後の課題である.
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