研究概要 |
1989年アラスカ湾,1991年ペルシャ湾,1992年スペイン,1993年スコットランド,アンダマン海と原油流出事故が続いているが,環境に与える影響を考えると流出原油はその場で焼却するのがよいと考えられている。日本近海ではそのような流出原油の焼却は周囲への影響を考えると困難であろうが,流出原油の燃焼性状を把握することは不慮の火災に対処するためにも必要である。しかしながら,石油類の表面に沿った火炎の伝播については油層のかなり厚い場合についての研究が中心であり,水面上に浮遊している薄い油膜のような条件では研究が行われていなかった。そこで本研究では水面上に薄い油膜が浮遊している場合の火炎伝播について実験的研究を行った。 実験装置は幅が200,長さ1850,深さ200mmの水槽である。水槽に溜めた水の上に油膜をつくり,一端で点火して火炎伝播の様子を観察し,火炎伝播時の温度等について測定を行った。水槽にはジャケットを被せてジャケット内に一定温度の水を流して水槽内の水温を制御した。石油類としてはデカンとヘキサン等を混合して試験油の引火点を調整し,室温条件で引火点以下の温度範囲の測定ができるようにした。このような引火点以下の温度領域では石油類上の火炎伝播は,液体内に生じる表面張力による流れに支配されることが知られている。実際,今回の実験から,かなり油膜の薄い場合にも表面張力流が生じており,火炎の伝播速度は表面張力の大きさを表わすマランゴニ数に依存することが確かめられた。ただし,表面張力流が速いと火炎の伝播速度も大きくなるというわけではなく,表面張力流が速くなると逆に火炎の伝播速度は小さくなることが分かった。これは今回の実験ではマランゴニ数を大きくすると液温が低くなることによる。以上,薄い油膜の場合にも引火点が低い,または液温が高いと火炎伝播速度が大きいことが分かった。
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