本研究では、ソフトウェアの品質・生産性に大きく影響する設計エンジニア間の情報伝達の問題に着目し、エラー防止の観点から重点管理すべき設計情報を明らかにすることを試みた。計測システム制御ソフトウェアの開発において実際に発生した314件の障害事例の調査を行い、各々の設計情報に対する有効な管理手段について検討した。結果として以下のことが分かった。 (1)機能設計情報理解ミスとインターフェイス設計情報理解ミスは、プログラムの種類に関係なく、常に60%以上を占めている。両者の比率は、ユーザーとのインターフェイスやハードウェアに近いプログラム群とこれらを繋ぐ中間層のプログラム群とでは異なっている。前者ではインターフェイス設計情報理解ミスが、後者では機能設計情報理解ミスが多い。 (2)機能設計情報理解ミスについては、a)要求の理解ミス、b)機能間の関連性の理解ミス、c)実行条件の理解ミス、d)システム状態の理解ミスが多い。a)及びb)はプログラムの種類によって特異的に、c)及びd)は全般的に発生している。これらのミスに対しては、ユーザー要求とプログラム機能、プログラムとその対象、システム運用条件とプログラム起動条件、機能実現のためのコードと状態操作のためのコード、の関連性を示した設計文書をそれぞれ作成し、それに基づく関連部分の確認を行うことが有効と考えられる。 (3)インターフェイス設計情報理解ミスについては、a)ハードウェア仕様理解ミス、b)OS仕様理解ミス、c)ファイル仕様理解ミス、d)モジュール仕様理解ミス、e)データ仕様理解ミスが多い。a)〜c)はプログラムの種類によって特異的に、d)及びe)は全般的に発生している。これらのミスに対しては、それぞれの情報をその内容、それが使われる設計プロセスの形態に応じた様式で文書化することが有効と考えられる。 (4)(3)-a)d)e)について、具体的な文書化の方法を実際の開発プロセスに適用し、エラー発生率を大幅に低減できることを確認した。
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