研究概要 |
ラット脳より神経系に特異的な分子量約23,000のカルシウム結合蛋白質を精製,部分アミノ酸配列を決定し,ラット脳cDNAライブラリーをスクリーニングし,相同性の高い数種の異なるクローンを得た.1番目のクローンはアミノ酸193個からなる3つのEF-hand構造を持つ蛋白質をコードしており,網膜の明暗順応調節蛋白質のリカバリンやS-モジュリンと高い相同性を示した.この蛋白質は,3個のカルシウムを10^<-6>Mレベルで結合し,カルシウムを結合することによりミリスチン酸化されたアミノ末端が蛋白質分子の表面に現われ,アンカーとなって細胞膜と結合することが示された.mRNAおよび蛋白質は海馬で非常に高く発現していることから,ヒポカルシンと命名した.海馬錐体細胞に特に高く発現し,大脳皮質錐体細胞の一部および小脳プルキンエ細胞に中等度に発現していた.海馬錐体細胞では発育にともなって発現量が増加するが,大脳皮質錐体細胞や小脳プルキンエ細胞ではシナプス形成期一致し一過性に高く発現した.このことからヒポカルシンはシナプスの可塑性と関連していることが示唆された.フィルターオーバーレイ法により数種の蛋白質とカルシウム依存性に結合することが示された.この内,分子量45Kの細胞質蛋白質を精製,部分アミノ酸配列決定をしたところ,クレアチンキナーゼであった.2番目のクローンは191個のアミノ酸からなる蛋白質をコードしており,ヒポカルシンと高い相同性を示した.この蛋白質は,大脳皮質錐体細胞の一部と海馬歯状回顆粒細胞に強い発現を認めた.さらにヒト・脳cDNAライブラリーより5種類の異なったcDNAクローンを単離した.これらの結果から,相同性の高い数種の蛋白質が神経系に存在し,局在する神経細胞が異なっていることが考えられ,機能の解明が期待される.
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