研究概要 |
石油・天然ガス等の資源の探査・開発については企業の観点からは投資理論の応用として捉えるべきであり,このとき企業価値あるいは企業業績と企業の保有する資産の間にどのような関係があるかを検討することが必要になる。本研究で第一に,石油資源の探査・開発によって企業が獲得した reserves すなわち資本の価値が原油価格にどのように依存するかを中心にして理論化した。 第二に,この投資理論を実際に使って実証分析を行った。まず,アメリカの大規模な石油企業20社のデータを利用して,その石油探査・開発投資と企業価値あるいはキャシュ・フローとの関係を推定した。アメリカの石油企業は,1980年代をとおして国内の投資を抑制し,海外での投資を増大させてきた。また,探査・開発に代わって企業合併・資産取得によるreservesの獲得を増大させてきた。このような,アメリカの石油産業の構造変化,企業行動の合理性を実証研究の推定値にもとづいて分析した。この結果,企業価値が,企業の組織構造や1980年代の企業合併などのリストラクチュアリングと密接に関係することが判明した。この実証結果を,第一の論文において,企業の垂直統合と企業価値の関係として明らかにした。そこでは原油価格規制下での垂直的統合が企業価値の高さと相関すること,したがって,垂直統合の進んだ社会が原油の探査・開発活動を積極的に行なったことが示された。第二の論文は,1980年代のリストラクチュアリングが企業価値と密接な関係にあることを実証した。 第三に,この投資理論をソビエト連邦の石油産業に応用して同様の実証分析を試みた。ところがソビエト連邦の崩壊によって,このデータの入手が不可能となっていることが判明した。このためデータを使用した計量経済学的実証は延期した。研究期間終了後,徐々にデータが入手可能となった時点で(1997年度),これらを整理した論文を作成する予定である。
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