本研究は、三つの段階に分けて実施された。第一は、既存の研究と資料に基づく民営化過程の中心問題の分析である。これに関しては、国際機関(OECD、IMF、世銀等)の調査報告書を主に利用した。第二は、公刊された図書、資料に加えて、報道機関、通信社、各国大使館から提供された資料に基づき、中東欧諸国の民営化に関する法制度、経済政策体系の基本性格とその特徴を分析した。第三は、それらの国際比較に基づき、中東欧諸国での民営化過程の枠組み、主要な形態を分析した。その結果は、以下の通りである。1.旧国営企業を財務省、あるいは所有権移転省(民営化省)が株式の大半を所有する形の株式会社に転換した後、残りの株式を市場公開するという形態である。これには、旧ノーメンクラトゥーラ層が経営層に残り、その勢力を温存することへの危惧が強い。2.旧国営企業の資産を再評価し、株式の額面価格を設定した後、その全部、あるいは一部を国内外の企業に販売し、民営化を図るという形態である。これには、有力企業が海外の企業に買収され、また、従業員の多くが解雇、整理されることへの抵抗が強い。3.旧国営企業を一旦清算、整理した上で、収益性の見込める事業部門について、その現在価値を算定し、それに基づき、国内外の企業へ売却するという形態である。これには、解雇を恐れる旧経営陣、旧従業員からの抵抗が強く、件数も最も少ない。4.一定の交換価値を有する民営化証券を国民全体に配布し、民営化対象の旧国営企業のリストを公表した上で、それへの株式購入申込みを実施し、一株当たりのバウチャー数を算定して株式価格を設定し、株式の売却を進めるという形態である。これについては、国民に配布されたバウチャーの交換価値と実際の株式価格との開きが大きくなる可能性が指摘され、これを推進していた国々でも、かなり後退した。そして、これら四つの形態について、該当する国々での進捗状況を分析した。
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