アモルファス氷の熱伝導率は彗星の熱史を研究する上で最も重要な物理量である。しかし、これまでに種々の困難のためにアモルファス氷の熱伝導率の測定値はなく、Klingerによる経験的な推定値が広く用いられてきた。本研究の目的は、新たな熱伝導率の測定法を開発し、アモルファス氷の熱伝導率を直接測定することにある。本研究で得られた成果を要約すると以下の通りである。 (1)真空、低温下におけるアモルファス氷薄膜の熱伝導率の測定法を確立した。氷薄膜の加熱源としては、室温からの輻射と氷の凝縮熱を用い、表面温度計は高温では電子線回折法によるアモルファス氷の結晶化を、低温ではH_2やHeなどの吸着量の温度依存性を用いた。 (2)アモルファス氷の熱伝導率がこれまでの推定値より4桁も小さいことが明らかになった。さらに、熱伝導率はアモルファス氷の凝縮速度に大きく依存することがわかった。これはアモルファス氷中の欠陥構造によるものと推定される。 (3)アモルファス氷にCOやCO_2などの不純物を含む場合は、純粋なH_2Oだけからなるアモルファス氷より熱伝導率は1桁程大きいことがわかった。これは、アモルファスH_2O氷中の欠陥部分にCOやCO_2が選択的に凝縮・吸着するためである。 以上の結果により、これまでに行われてきた彗星の熱史の研究は根本から見直す必要があることが示された。
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