研究概要 |
本年度はコラーゲンゲル上で骨髄細胞より分化してきた骨芽細胞が形成する石灰化結節が,生体内における骨と同様のものであるか否かを形態学的に観察した。電子顕微鏡による観察から石灰化結節中には,基質小胞(Matrix vesicle)様構造物が認められ,さらにコラーゲン線維上には針状結晶物が沈着しており,X線微量元素分析からカルシウムとリンが同定され,ヒドロキシアパタイトと推定された。このような組織所見は生体内で認められる初期石灰化と同様の起転であり,コラーゲンゲル上で分化した骨芽細胞は生体内におけるのと同じ石灰化組織を形成していることが明らかとなった。コラーゲンが有する骨芽細胞への分化誘導能はI型コラーゲンをゲル状としたものに特異的で,IV型コラーゲンや,I型コラーゲンでも乾燥させ膜状にするとその効果は失なわれた。さらにゲル濃度が,0.1%から0.5%になると骨髄細胞から骨芽細胞への分化誘導能は促進された。骨髄細胞から骨芽細胞への分化は本報告以外にデキサメザゾン(DEX)でおこることが知られている。ゲルとDEXを比較すると,ゲルでの分化誘導はDEXに比べ遅れておこることが明らかとなった。このことはコラーゲンゲルによる分化誘導とDEXによる時では,その発現機構が異なることを示すものである。DEXは細胞内の受容体と結合して,遺伝子発現を調節することで分化を誘導するのに対し,コラーゲンゲルでは細胞内骨格を再配列することで分化を誘導すると推察される。 今後は分化誘導の発現機構をさらに研究すると同時に,実現性の高い移植体を開発する予定である。
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