研究概要 |
変異したP53遺伝子(mp53)をヒト正常線維芽細胞に導入すると,mp53を導入していない対照細胞に比べ約20%の寿命の延長がみられた.また,mp53を導入した細胞を62回継代後,染色体を調べた結果,すべての細胞に染色体の異常が認められた.しかし,これらの細胞は不死化しなかった.また,mp53を導入した細胞にX線を照射すると,6チオグアニン耐性の変異細胞の出現率が有意に上昇することを報告した.以上の結果より我々は,1)mp53がヒト正常細胞の寿命を延長させるるが,2)しかし,mp53のみではヒト細胞は不死化しないこと,3)mp53は染色体/遺伝子の不安定性を起こすこと,をみいだした. このmp53を導入した細胞をさらに,化学発癌剤(4NQO),あるいは,X線で処理すると不死化した.同条件の化学発癌剤あるいはX線の処理では不死化しなかった.これらの実験より,p53遺伝子の変異にさらに未知の遺伝子の変化がヒト細胞の不死化に必要なことを我々は証明した. また,不死化した細胞では正常p53遺伝子によって誘導されるp21遺伝子の発現が欠落すること,反対に,不死化細胞にp21遺伝子を導入すると,不死化細胞のDNA合成が停止し,細胞の老化が起こることを報告した. 以上の我々の実験結果より我々は,ヒト細胞の老化にはp53遺伝子の機能が関与していること,この遺伝子とさらに未知の遺伝子の変化がおこれば,細胞は老化を脱出し不死化に向かうことを明らかにすることができた.
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