研究概要 |
老齢脳の機能低下は,ニューロンの脱落とシナプス密度の減少による神経ネットワークの障害と,残存するニューロン機能の減退によって加速されると推定される.シナプスあるいはニューロンネットワークの消退を防ぐか遅らせることによって,加齢による脳機能低下を免れることも可能になると考えられる.本研究では,第一にシナプス機能の加齢変化について検討し,第二にシナプスのマーカーとなる新しいガングリオシドの構造を決定すること,第三に加齢脳においてシナプス密度の減少を防ぐ処置をすることによって脳機能の低下を抑える試みを行った. シナプスの機能低下については,以前の研究で静止膜電位の減少を見い出しており,その原因として電位発生源であるNa/K-ATPase活性の低下を明らかにしてきた(Tanaka,Ando,Brain Res.,506:46-52,1989).本研究において,シナプス膜のNa/K-ATPase含量が高齢後期に減少することがわかった.シナプス膜マーカーとしてのガングリオシドについては,新しい分子を4種類同定した.そのうちの2つはコリン作動性ニューロン特異抗原とされていたChol-1に属するものであった.それらは新たにGTlaα,GQlbαと命名された.他の2つは0-アセチル化されたガングリオシドで,O-Ac-GT3とO-Ac-GT2の構造が明らかにされた.それらは神経線維先端の生長円錐に存在することが証明された.脳には可塑性のあることが知られており,ラットを豊富環境下で飼育することによって,記憶,学習能が高度に発達することを確認した.それらの動物脳についてシナプスマーカー蛋白質シナプトフィジンを定量したところ,通常の環境下で老化した対照群に比べて,有意に増加していることを見い出した.このことから,脳のシナプス密度を高めることによって,老化による脳機能の衰退が遅延される可能性が示唆された.
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