研究概要 |
アメンボは、異翅亜目に属する、池、川、および海の水面にトラップされた動物を捕食あるいは腐食する昆虫である。彼らは表面張力によって水面に浮き、オールとしての肢により形成された水のメニスカス(menisci)を用いて推進する。本プロジェクトにおいて、われわれはGerridaeの選定されたグループの翅多型性、性、および生態の水面運動システムの機能形態学とバイオメカニクスへの影響に対する比較研究を行った。 生物力学と生態:われわれは日本の7種のアメンボ(Gerridae)、オオアメンボ、ナミアメンボ、ヤスマツアメンボ、ハネナシアメンボ、ヒメアメンボ、シマアメンボ、トガリアメンボを用いた。運動パフォーマンスを肢のストロークとみなし、背中に力の変換器を付けられた、水面に宙吊りにされた標本で測定した。力を体重で割ることにより、パフォーマンスの比較を行った。体重と力の間には正の相関が、体重と力-体重比の間には負の相関が、種内および種間で見出された。水面運動と飛翔運動との間のトレードオフは力-体重比の異なるパフォーマンスとして実証された。有翅あるいは無翅へのバイアスは種によりけりであり、おそらくは生息場所選択に関連があるだろう。永続的な生息場所を好むアメンボ種(ハネナシアメンボ)は無翅型においてより高いパフォーマンスを示した。しかし、一時的な生息場所を好む種(ナミアメンボ、トガリアメンボ)は両方の型のパフォーマンスは有意に異ならなかった。雄は3種(オオアメンボ、ハネナシアメンボ、トガリアメンボ)を除く研究されたすべての種において雌よりも高いパフォーマンスを持っていた。それらの3種は交尾闘争の少ないタイプIの交尾戦略を持っていた。われわれはタイプIの配偶システムの雄(雌を獲得するためには強く争わなければならない)ではうまく交尾するために雌よりパフォーマンスが優れていなければならない、タイプIIでは必ずしもその必要はない。 機能形態学と発育:電子顕微鏡解析を通して、アメンボの体は、1)上側の長い剛毛(30-80μm)および2)下層の糸状の毛(5-9μm)からなる二重のヘア構造により被われていることが分かった。肢には剛毛だけが存在している。われわれは幼虫発育を通してナミアメンボの剛毛と糸状の毛のカバーの機能形態学を研究した。われわれはまた、酸素化した水と脱酸素化した水における幼虫と成虫に関する浸漬実験を行った。幼虫のマイクロトリキア(体の糸状の毛群)は非常に短い(1齢と2齢では0.5-0.6μm、3齢から5齢では0.8-1.7μm、そして成虫では5-9μm)。幼虫の体の剛毛は、成虫とほぼ同じ長さ(25-50μm)である1しかし、成虫よりもはるかに密度が低い(それぞれ1,800-5,750/mm^2および15,000-20,000/mm^2)。肢の剛毛密度は、発育を通じて相対的に一定であった(幼虫:1,5000本/mm^2;成虫20,000-26,000本/mm^2)。われわれは短いマイクロトリキアのカバーは、幼虫では防水機能を、成虫では圧縮された空気泡として機能しているという仮説を立てている。幼虫におけるマイクロトリキアの防水機能は成虫においては剛毛によりなされる。幼虫の肢の剛毛の密度と長さは、成虫の体と肢のものとほとんど同じであり、おそらく防水機能として最適化されている。このように、形態測定パラメータにおける変化は、同じ構造を用いながら、機能の大きな変化をもたらすであろう。
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