研究概要 |
マウスファーテリンα(ADAM1)には二個のアイソフォーム(ADAM1aとADAM1b)があり,ADAM1aが精巣精細胞の小胞体に限定局在しているのに対し,ADAM1bは精子細胞膜表層へ運搬されADAM2とヘテロダイマーを形成している。ADAM1a欠損マウスは,精子の子宮から輸卵管への移動不能が原因で不妊になる。ADAM1aは精細胞でADAM2とヘテロダイマーを形成しているが,その複合体によってADAM3を含めたいくつかのタンパク質の精子膜表層への移行が制御されている。精子表層にあるADAM1b/ADAM2ファーテリンが精子と卵子の相互作用だけでなく,精子形成過程で何らかの機能を持っているかに関して明確にすることを試みた。 ADAM1b欠損オスマウスは,野生型マウスと同様の産仔産生能を有していた。その欠損マウス精子について調べたところ,精子の卵子透明帯への結合能や卵子との融合能に野生型と有意な差がなかった。子宮から輸卵管への精子移動にも異常はなかった。精巣上体精子の生化学的な解析によって,ADAM1b欠損マウスでは,ADAM1bと同時にADAM2も欠損していた。以上の結果から,従来から考えられてきたADAM1b/ADAM2複合体ファーテリンが精子と卵子の融合に必須でないことを証明できた。ADAM1a欠損マウスの解析結果も含めて考察すれば,ファーテリンは,受精での直接的な配偶子間相互作用ではなく,ADAM3などの受精に必須の精子タンパク質を精細胞小胞体から精子表面へ移行させるような機能をもっていることが示唆された。
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