研究概要 |
イソフルレンは従来in vitroの実験では、神経細胞ならびにその受容体、シナプス伝達に抑制的に働き、その抑制作用が麻酔と関連あることが示唆されてきた。しかし、イソフルレンによる覚醒から麻酔に至る間の神経伝達物質がどのように変化するかについては知られていない。雄270-350g Wistar系ラットを用いた。実験7日前にペントバルビタール麻酔下で脳波電極,マイクロダイアリシス透析用プローブ(膜長:2mm大脳皮質に留置),観血的動脈圧モニター等をあらかじめ留置する.麻酔導入は自由行動ラット用に作成されたbox内で脳波,動脈圧と同時にマイクロダイアリシスを行う.大脳皮質から採取した液は液体クロマトグラフィーにてアセチルコリン酵素カラムで分離しアセチルコリンの動態はHTEC-500にてリアルタイムに測定する.実験群はイソフルレン0.5,1.0または2.0MAC群の3群に分け、各群における視床下部後側部、前脳基底核、大脳皮質におけるグルタミン酸、GABAおよび大脳皮質におけるアセチルコリン(Ach)の放出を測定した。0.5〜2.0MACイソフルレンは視床下部後側部でのグルタミン酸、GABAになんら変化をもたらさなかった。一方、大脳皮質に直接神経線維を送っている前脳基底核では、イソフルレンはグルタミン酸放出を用量依存的に増加したが、GABAは用量依存的に減少した。大脳皮質におけるグルタミン酸放出は1.0MACで増加し、2.0MACでもとのレベルに戻った。一方、GABAは0.5MAC〜1.5MACに漸次減少し、2.0MACでもとのレベルに戻った。また、イソフルレン麻酔は大脳皮質からのAchの放出を用量依存的に減少した。一方、前脳基底核にグルタミン酸受容体agonistであるAMPAを投与すると、脳波の活性化とともにイソフルレン麻酔によるAch放出が用量依存的に拮抗された。以上の結果から、イソフルレンの作用にはグルタミン酸による興奮作用とそれ自体の有するAMPA受容体抑制作用があり、結果的に抑制作用が勝って大脳皮質からのAchの放出を抑制し、麻酔がかかることが示唆された。また、前脳基底核にオレキシンを投与するとイソフルレン麻酔に拮抗し、Achの放出を増大することからオレキシン細胞の活性化はイソフルレン麻酔に拮抗し、麻酔からの覚醒に関与することが示唆された。
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