研究概要 |
昨年度は,任意の次元におけるブラックホールとドメーンウォール(=ブレーン)やストリングなどのとの相互作用を集中的に研究した。今年度もその研究を引き続き進めて,いくつかの新しい成果を得た。 まず,ブレーン上にあるブラックホールがブレーンから引き離されていく過程を,これまでは数値的にのみ求めていたが,最後にブラックホールがブレーンから引き離される瞬間は記述できていなかった。この瞬間の前後に関してそれが準静的に起こるという仮定の下に解析的に調べる方法を編み出し,それによって,ブラックホールがブレーンから引き離されている様子の全体像を明らかにした。その結果,余剰次元が1の場合と2以上の場合では答えが大きく異なり,1の場合にはブラックホールはブレーン上に安定に存在できないのに対して,2以上の場合には,ある臨界運動量を超える運動量を与えられてはじめてブレーンから引き離されることが分かった。これは,今後のLHC等の高エネルギー加速器実験でブラックホールが生成され,余剰次元の存在の示唆が得られた場合に,その余剰次元の数に大きく依存する結果が得られることを示唆しており,非常に重要な結果である。これはPhysical Review D誌に発表された。 その後,一般次元の反ドジッター時空の量子的安定性の問題に取り組んでいる。反ドジッター時空は,ブレーン宇宙モデルに頻繁に現れる余剰次元の時空である。この時空上に正の質量を持つスカラー場を考え,最も自然な真空を考えると,そのスカラー場の2点相関関数が空間的距離が無限大の極限で発散することが分かった。これは,高次元時空のコンパクト化によって反ドジッター時空が現れるとすると,その時空が赤外不安定であることを示唆している。現在,その物理的意味をさらに追求中である。
|