研究概要 |
本研究は,人工社会のシミュレーションと市場における交渉の2つから構成される. 前者の研究に関しては,次の成果が出た.人工社会における学習モデルを構築し,他者とのインタラクションの重要性が認識された.本学習モデルでは,他者との交流と環境との観察を元に,各エージェントが学習する.エージェントには他者に追随する度合いが設定されている. 我々は,学習の種類により,他者への追随が異なる影響を与えるという結果を得た.エージェントが環境から学習する場合,極限られた数のエージェントが他者へ追随できれば,全グループの学習がうまく行われる.エージェントが他者からの学習しか行わない場合,少数のエージェントが自己の状態を変化させ,他者へ追随する状況では,社会的学習の度合いはとても悪くなる.本モデルは椎名氏との共同作業により作成された.一度の研究発表と2006年に京都で開催される社会シミュレーションの国際会議への投稿が行われた. 後者の研究は,日本における有機野菜の提供網(サプライチェーン)に関するものである.本提供網はとても古く,ごく近年まで公開されていなかったので非常に興味深い.また,通常のマーケットとは違い,緊密なつながりのあるネットワークを形成している.当初,取引は農家により有機栽培法と平等取引の原則が守られて行われていた. 「提携」システムは,その規模が大きく成長した.90年代には,農家と買い手の間の関係があまり強くない中継市場の形に変化した.売りに特化するという新しい役割が生まれ,流通規模がより大きくなった.市場では有機農法の手法に則り自然を保持するという共通認識持ち続けていたが,流通のオープン化により,そのスタイルが変化し,全く違った形のネットワークが形成されるに至った. 以上の事実を整理した後,有機野菜に関する新たな顧客グループと知識の広がりにより,共通商品が誕生するという仮説を検証するステップに入った.本仮説をしばらくの間,深く考察し,論文が2006年5月4-5にパリで開催されるワークショップDIME"the Emergence of Markets and Their Architecture"にて発表予定である.
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