中性子スピンエコー分光装置は試料のダイナミクスを中性子のスピン歳差回転数の変化としてとらえるもので、準弾性散乱装置として最高のエネルギー分解能を持つ。中性子スピン干渉原理に基づく共鳴スピンエコー法では共鳴スピンフリッパーと呼ばれる素子に適用する振動磁場の周波数が高いほど分解能は向上する。共鳴スピンエコー装置を大強度陽子加速器計画J-PARCに設置する計画を進めており、高周波共鳴スピンフリッパーの開発を行った。フリッパーには振動磁場と共鳴する外部静磁場が印加されるが、高周波では強い静磁場が必要となる。また静磁場の境界は高い位置精度が必要となる。大電流に耐える冷却系、面精度のよい静磁場コイル、もれ磁場の少ない振動磁場コイルを持つフリッパーを作成した。日本原子力研究所改3号炉冷中性子ビームラインC3-1-2MINE及び京都大学原子炉実験所冷中性子ビームラインCN3にてこのフリッパーによる中性子スピン反転試験を行い、振動磁場周波数100kHzで反転率0.95以上を得た。現在より高周波で駆動するフリッパーの開発を行っている。 中性子多層膜ミラーを用いて入射ビームを空間的に分割・重ね合わせする光学素子「ビームスプリッティングエタロン」を用いた大型冷中性子干渉計の開発の研究を行った。大型エタロンによって入射中性子が空間的に完全に分離することを確認した。これを2つ用いれば干渉計を構築でき、アハラノフ=キャッシャー効果の測定を検討している。磁気双極子能率を持つ粒子が電荷を囲む経路を通ると量子力学的な位相が変化するというもので、実験的には干渉計の2つの経路に静電ポテンシャルを印加する。測定精度は経路長に比例し、長さ20cmの電極では過去のSi単結晶干渉計での測定の約10倍の感度で測定できる。実際に高電圧電極を作成し中性子ビームの通過の確認などの準備実験を行った。
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