研究課題
特別研究員奨励費
網膜を通じて入力される光刺激は、そのすべてがアウェアネスを形成するわけではない。マスキングや注意など、時間制約のある処理過程を経てワーキングメモリに転送された情報だけがアウェアネスとなり、ヒトの意識を形成する。本研究の目的は、この時間処理制約に関する認知モデルを脳機能とも整合性の高い形で構築することだった。そのため(1)行動実験と、(2)fMRIを用いて脳活動を計測する実験を行った。(1)視覚刺激を同一位置にRSVP提示し、2つのターゲットの報告を求めると、1つ目の正答率は高いが、500ms以内に提示される2つ目のターゲットの正答率はいちじるしく阻害される(Attentional Blink;以下AB)。ABは、短時間に2つの情報をVisual Working Memory(以下VWM)に取り込むことができないため生じると言われてきたが、これが直接検討されたことはなかった。そこで本研究では、多くのオブジェクトが散在する日常知覚場面に近い刺激画面を用い、AB課題とVWM課題を組み合わせた実験を行って検討した。その結果、VWMに新たにオブジェクトを取り込むときのみABが生じることが明らかになった。(2)視覚初期過程で生じると思われてきたメタコントラストマスキングにトップダウンの空間的注意が影響を与えることが知られている。われわれはこの現象に関わる脳内機構をfMRIを用いて検討した。得られたデータをSEMによって解析した結果、運動前野と全頭眼野が右頭頂葉を経由して高次視覚野から初期視覚野までをモジュレーションすることで空間的注意機能が実現されていた。そのような脳内活動を伴って画面を観察すると、物理的には同じ刺激でもメタコントラストの効果が変化することでオブジェクトアウェアネスが変化し、見えれば見えるほど両側の紡錘状回と右頭頂葉の神経活動が高くなることが明らかになった。
すべて 2005
すべて 雑誌論文 (1件)
Neuroreport 16
ページ: 491-494