研究概要 |
本年度前半(4月1日〜9月23日)にかけては,ウィーン大学教育学研究科を中心としてのフィールドワークによる資料収集に従事した。ウィーンでは,資料収集の他に,大学内外の先行研究者と面会し,資料からはよみとることのできない知見をたくさん得た。その概要を述べる。そもそもオーストリアの教育史は,1980年代になってまとめられたという経緯がある。その中で戦間期オーストリアの教育改革史は,現在のオーストリアの政治体制,すなわち保革対立の構造で語られることが多く,これらの分析が十分になされているとは言い難い。その中でウィーン大学教授のオレヒョフスキーは,これまでのような政治構造による解釈ではなく,改革を教育学の枠組みで解釈しようと述べている。改革を教育実践の枠組みで読み解こうとする私の立場に近いといえる。その成果を帰国後,ひとつの形にしたものが,目標・評価学会自由研究発表「戦間期オーストリアにおける評価改革」である。ここでは評価改革が指導と評価を一体化させた教育実践を促進する要因のひとつとなったことを明らかにした。 研究計画のもう一本の柱として,ウィーン郊外の公立小学校(フォルクスシューレ)での授業研究を行った。これは戦間期の郷土科の実践に着目している関係から事実教授の授業を長期的に観察,記録した。'事実教授と戦間期の郷土科の教育内容にはかなり関連性があり,その点については,「オーストリアの郷土科および事実教授カリキュラムにおける「図面と地図」単元の歴史的変遷--戦間期オーストリアの学校改革からの伝統--」(京都大学大学院教育学研究科紀要,第51号,2005年掲載予定)で明らかにした。
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